医療の常識がいま、大きく変わりつつあります。再生医療とは、細胞そのものを「薬」として活用し、失われた機能を回復させる治療法です。私たちの体には、傷ついた組織を自ら直す力が備わっていますが、その中心的な役割を担っているのが「幹細胞」*Ⅰです。本日は、幹細胞の種類と現代医学におけるその役割について詳しくお話しします。

1.私たちの体に潜む修理屋「組織幹細胞」

私たちの体内(骨髄、皮膚、脂肪など)に自然に存在し、日常的なメンテナンスを行っているのが「組織幹細胞」*Ⅱです。例えば、骨折が治ったり、髪の毛が抜けてもまた生えてきたりするのは、この細胞が持つ「自己複製能」*Ⅲと、特定の細胞に変わる「分化」*Ⅳの力によるものです。

特に「間葉系幹細胞」*Ⅴは、骨髄や脂肪から比較的容易に採取でき、骨や筋肉だけでなく、神経や内臓の細胞にまで分化する能力を秘めているため、臨床現場で活発に応用されています。

2.限界を超える「多能性幹細胞」とiPS細胞

組織幹細胞は増える量に限りがありますが、これに対し、ほぼ無限に増殖し、体中のどのような細胞でも作り出すことができるのが「多能性幹細胞」*Ⅵです。

かつては受精卵を壊して作る「ES細胞」*Ⅶが主流でしたが、倫理的な課題や拒絶反応の問題がありました。しかし、山中伸弥教授らが開発した「iPS細胞」*Ⅷは、この問題を鮮やかに解決しました。「ヒト細胞 → iPS細胞 → 別の必要な細胞」というプロセスを辿ることで、患者さん自身の細胞から拒絶反応のない組織を作り出すことが可能になったのです。

3.病気の原因を解明する「疾患特異的iPS細胞」

iPS細胞の凄さは、移植治療だけではありません。患者さんの血液などから作る「疾患特異的iPS細胞」*Ⅸを使えば、これまで採取が困難だった脳の神経細胞などを培養皿の中で再現できます。これにより、難病の原因究明や、新しい薬の開発(創薬研究)が飛躍的に進歩しています。

ただし、多能性幹細胞はそのまま移植すると「テラトーマ」*10という腫瘍を作るリスクがあるため、目的の細胞へ正しく育てる高度な技術が不可欠です。

  【用語説明】

  *Ⅰ 幹細胞:自分と同じ細胞をコピーし、別の細胞に変わる能力を併せ持つ細胞。

  *Ⅱ 組織幹細胞:体内に元々存在し、特定の組織を維持する幹細胞。

  *Ⅲ 自己複製能:分裂して自分とまったく同じ能力を持つ細胞を作る能力。

  *Ⅳ 分化:未分化な細胞が、特定の役割を持つ細胞に変化すること。

  *Ⅴ 間葉系幹細胞:骨髄や脂肪にあり、多彩な組織に分化できる組織幹細胞の一種。

  *Ⅵ 多能性幹細胞:体のあらゆる細胞(神経、筋肉、内臓など)になれる能力を持つ幹細胞。

  *Ⅶ ES細胞:受精卵の一部(胚)から作られる多能性幹細胞。

  *Ⅷ iPS細胞:ヒト細胞に特定の因子を導入し、人工的に初期化させた多能性幹細胞。

  *Ⅸ 疾患特異的iPS細胞:特定の病気の患者さんの細胞から作られたiPS細胞。

  *Ⅹ テラトーマ:多能性幹細胞が秩序なく分化して作られる腫瘍。

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